資料・陸軍造兵廠技能者養成所教育綱領

第一 軍ノ強弱ハ装備兵器ノ精否ニ又精強ナル兵器ノ製造ハ優秀ナル技術ニ依   ル所大ニシテ優秀 ナル技術ハ青少年期ヨリノ教育ニ負ウ所頗(すこぶ)ル多シ是陸軍造兵廠技能者養成所ヲ設置セラルアル所以(ゆえん)ナリ

第二 陸軍造兵廠技能者養成所ニ於イテハ聖論ヲ奉體(ほうたい)シ左ノ要綱ニ基 キ教育スヘシ
一 國體(こくたい)ヲ明徴ニシ尊皇愛國(あいこく)ノ心情ヲ養成ス

二 軍人精神ヲ涵養(かんよう)シ軍紀ニ習熟シ高潔ナル品性ト正純ニシテ剛健ナル思想トヲ陶治ス

三 心身ヲ開惕發達(はったつ)セシメ健全ナル身體(しんたい)ト鞏固(きょうこ)ナル意思トヲ養成ス

四 陸軍造兵廠従業員ニ必要ナル識量技能ヲ附與ス

第三 勅語及勅諭ハ精神教育ノ本源ナリ故ニ生徒ハ晨ニ心身ヲ潔斎シテ之(これ)ヲ奉讀(ほうどく)シ夕ニ心境ヲ寧静ニシテ之ヲ黙念シ聖旨ノ服膺(ふくよう)ト實行(じっこう)トヲ期セサルへカラス

第四 鞏固ナル意思ト強健ナル體力(たいりょく)トハ技能者必須ノ要件ナリ故ニ生徒ハ常ニ慾情ヲ制シ己ニ克チ定メラレタル所黙々トシテ力行シ一途ニ本文ニ邁進(まいしん)シ鞏固ナル意思ヲ培ヒ又自ラ進ンテ體躯(たいく)ヲ鍛ヒ筋骨ヲ錬リ身體(しんたい)ノ發達(はったつ)ヲ圖(はか)リ持久力ヲ養ヒ以テ責務ヲ遂行スルニ毫モ遺憾ナキノ資質ヲ 具備セサルヘカラス

第五 兵器ハ古来武士ノ魂トシテ尊重愛護セシ所ノモノトシテ一國(こく)工業ノ粹(すい)ハ兵器製造技術ナリ 故ニ生徒ハ日夜念ヲ茲(ここ)ニ致シ速カニ世界無比ノ精強ナル皇軍兵器ノ製造者ト爲臣道ヲ實践(じっせん)シ奉ル意氣(いき)ヲ以テ専ラ修學(しゅうがく)ニ勉勵(べんれい)スヘシ

第六 敎育ニ任スル者ハ常ニ修養研鑽(けんさん)ニ努メ所長ヲ核心トシ和衷協力率先垂範職務ノ如何ニ拘ラス全員以テ生徒ノ薫化敎導(きょうどう)ニ當(あた)リ其ノ徹底ヲ期スヘシ

第七 敎育ニ方リテハ生徒ヲシテ克ク本文ヲ自覺(じかく)シ悦ンテ上長ノ敎訓ニ従ヒ以テ一意其(そ)ノ本務ニ邁進セシムルコト肝要ナリ故ニ常ニ生徒ト接觸(せっしょく)ヲ密ニシ環境ニ留意シ學術(がくじゅつ)科敎育及日常ノ起居動作ヲ通シテ其ノ個性ヲ詳ニシ骨肉ノ至情ト透徹セル眼識トヲ以テ適切ナル敎導(きょうどう)ヲ行フヲ要 ス
第八 學術科敎育ハ別ニ示ス所ニ基キ實施スヘシ

(村上初一さんが所持していた「陸軍造兵廠技能者養成所手帳」より抜粋。毒ガス資料館所蔵)

※ 旧漢字には、ふりがなをつけてある。