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漂着物エッセー (7)

広島湾

 広島の海岸の漂着物で、よく目につくのが、特
産のカキ養殖に使うプラスチックの棒と、カキの殻
です。プラスチック棒は細い管状で、直径1.5cm
前後、長さは、長いもので25cmくらい、半分くらい
のものも、うんと短いのもあります。色は緑、黒、灰
色で、安芸の宮島の干潟にも多数流れついていま
す。海岸の満潮線や、波打ち際に、このプラスチッ
ク棒が筋を引くように並んで漂着していることもあっ
て、海藻が絡みついたり、フジツボがついているの
もあります。

広島湾に浮かぶ似島の漂着ゴミ
(’03年)

 一方、カキの殻の方は、これはもう、場所によって
は浜を覆い尽くしていることも珍しくありません。人
間の凄まじい食欲の風景です。海岸は、たとえ人っ
子ひとりいなくても、人間の痕跡であふれかえってい

るのです。私はゴム長靴でカキの殻を踏んで歩くたびに、ああカキンガラかと思います。
 ただ、このカキの殻、波に削られて真っ白になると、これはこれで楽しいものです。真ん
中に穴の開いた、くねくねと歪んだ楕円形を探して、ネックレス、キーホルダーの類いにし
ても素敵です。これは殻の表面が剥げて、完全に白くなっていることが肝心です。

カキ養殖の棒

 春から初夏にかけては、アサリがおいしい頃なので、宮島、似島、江田島などへ
潮干狩りにも出かけます。カイカキで掘ると、コツンと軽い音がして、太った身の大
きいアサリが、泥の中に、しっかりくい込んでいて、取り出すとポコッと穴ができるほ
どで、この抵抗感が素晴らしく、しかもそんな大きな貝が出たのなら、そこは人がま
だ手をつけていない場所で、たいてい次から次とゴロゴロ取れて、貝脈に当たった
というわけです。私の髪の毛は泥がこびりついてグシャグシャ、肩や腰が疲れるの
も忘れて掘りつづけます。ときどきアサリに似たオニアサリや、小さな巻貝なども獲
物になり、持ってきた袋は一杯になって、疲れた体で嬉しそうに笑っています。本能
まで洗濯する日です。
 ぽかぽかとした気持ちのいい陽射しのなか、野イチゴの白い花が群がり咲いてい
るような道端を歩き、私が牛か馬なら食べてしまいたいような、瑞々しい若草の生え
た場所から海岸に出て、淡い色をした、レースのような波打ち際を歩くのは、それだ
けで楽しいです。海岸に沿った道の少し高い場所から、波頭の見えない、青いホット
ケーキのような海を見下ろすのも好きで、砕け散る波の派手さはないけれど、それ
だけに忘れられて破壊されやすい美しさだと思っています。

←カキンガラのキーホルダー

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