kaihyoukutsu

 1998年、四国の太平洋岸を旅行中の私は高
知の桂浜を訪れました。漂着ゴミはほとんどあり
ませんでしたが、五色石と呼ばれる浜の小石が
美しくて、私は夢中で拾いました。ハッカ入りのド
ロップスのような白、淡い若草色、小豆色、柿の
木につくイラガの繭のような、鮮やかな白黒のま
だら模様もあります。海水に浸かると、貝殻のよ
うな澄んだ薄紫色をしているもの。小さい灰色の
石の表面に、バラの花のような模様を刻んだも
の。四国山地を流れる川の岩肌のように複雑な
縞が浮き上がった、小石のくせに風格のある渋
い石もあります。知識があれば、きっと鉱物標本
を見るような海岸なのでしょう。

桂浜の五色石

 はしから欲しくなってしまいますが、旅行中ですので、歩けなくなるほど拾うわ
けにもいきません。そこで、気に入ったものをどんどんビニール袋に入れていき、
重くなったところで、浜辺に座り込んで中身を広げ、宝石の原石でも探すように、
慎重に良い物だけを選びます。そしてまた拾い集めて同じことを繰り返します。

 曇り空でも海は穏やかでしたが、桂浜は美しい石の流れ着く海岸にふさわしく、
気難しいところがあるようでした。波の寄せ方が不規則で、思いがけない波が大
丈夫と思っていた辺りまで突然打ち寄せてきて、石探しに夢中になりすぎると、
びしょ濡れになりそうでした。でも波打ち際ほど美しい石があるような気がして、白
い波しぶきを気にしながら探しました。ヒスイの原石よりも鮮やかな緑色の石を見
つけると、ヒスイは硬くて、波に削られても丸くなりにくいと聞いたことがあるけど、
これはすべすべで丸いなあと残念に思ったりしました。

これらの五色石は、仁淀川の河口から流れてきて、近くの桂浜に打ち寄せられた
ものだそうです。仁淀川は、四国山地の辺りが源流の大きな川で、石は深い渓谷
を流れる水に削られて、太平洋に流れ着くのでしょう。美しい四国の背骨のカケラ
です。

漂着物エッセー (6)

高知・桂浜の五色石

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