kaihyoukutsu

漂着物エッセー (3)

ココヤシ

 1999年、浜田市国府海岸にヤシの実が流れ
着いていました。大きくて、表皮の繊維はバサバ
サで、水を吸ってぐっしょりとなり、指で押さえると
跡がつくほどでした。繊維がべっとりと固まったよ
うな部分には、ポコッと小さな穴も開いていて、よ
く見ると貝かフジツボのような生き物が住みつい
ています。砂だらけで、とても重たいものでした。

 晴れた気持ちのいい休日でしたので、サーフィ
ンをする人や、犬を散歩させる人、親子で遊びに
来ている人達がいて、浜は賑やかでした。私は
ヤシの実を波除けフェンスの近くの目立たない
場所に移動させ、帰りに持ち帰ることにしました。

 金銀や宝石に鉱脈があるように、浜のゴミにも
質の良し悪しがあって、遠くから流れ着いた物が

写真は徳島県由岐町で拾ったもの
(’98年)

多い時は、わくわくするような、おもしろい物が混じっています。浜に着いて早々こんな
良い物がある日は、きっと漂着物の筋が良いのです。私は丁寧に浜のゴミを掻き回しま
した。中国や台湾からの漂着が多い日で、台湾省於酒公賣局という浮彫り文字のある
ガラス壜を見つけました。台湾の専売公社が作ったお酒の壜でしょう。北京緑傘化学有
限公司 (※原文の一部略字)製と書かれたトイレ用洗剤はなかなか洒落たデザインで
す。猫の絵のついた、可愛らしい小さなプラスチック容器も、上海で製造された子供用乳
酸飲料のようでした。

 漂着した生活用品は、きれいな表通りや、応接間からではなく、観光の種にもならな
い日常や、台所から直接流れてくるのですから、外国の生活の実に些細な部分を伝え
てくれます。私はこの日、韓国と台湾のガラス壜を二本、中国のプラスチック容器を二本、
腐乳の赤いフタや、中国製ペットボトルについたフタを幾つも拾い、最後にヤシの実を持
ち帰りました。ビニール袋に入れたヤシの実はずっしりと重くて、人の毛髪のような、バサ
バサの繊維がチラッと見えて、なんだか生首のようでした。漂着物というものは、時には
ドキッとするような雰囲気を持つことがあります。

戻る

次へ

エッセー目次

TOP