海岸陶片の未来

 海岸陶片の大部分は、誰にも顧みられることなく、海岸に眠り続けていると思
われます。場所によっては、海底の沈没船からの漂着がありながら、気づかれ
ないまま、美しい伊万里が波に洗われ、やがて割れて、小さな破片となって、砂
の中に埋もれているかもしれません。もし、海岸陶片への関心が高まるなら、そ
れらもいずれ発見されることでしょう。ひょっとしたら、素晴らしい水中遺跡の発
見に繋がるかもしれません。

 海岸に堆積した、昔の生活ゴミ陶片の方は、日本中の
海岸に無数にあると思われます。私は海岸を歩いて7年
くらいになりますが、近世、近代あわせて、1300点あまり
を拾い、また、その何倍かの陶片を海岸で見ています。私
が歩いた僅かな場所だけでも、そのくらいはあるのですか
ら、日本全体では、いったいどれくらいの数になるのでしょ
う。きっと大きな遺跡の発掘調査で出てきた以上の量の
古い陶片が、海岸全体には埋蔵されているかもしれません。
 それらは今、海岸のゴミとしか思われておらず、集落近く
の汚い海岸に多いため、拾わなければ、埋め立てられて、
どんどん消えていきます。

 しかも、一つ一つの海岸に埋
蔵されている量は、一部の例外
的な場所を除き、ごく僅かでしょ
うし、保存状態も良くないため、
これらのすべてを、専門の研究
機関が調査するのは無理では
ないかと思います。

 これらの陶片は、五十年、百年、あるいは数百年もたつ、
古いものなのに、たくさんありますし、おもしろくて、珍しくて
美しいのに、身近な場所で簡単に見つかります。もともと食
器なので、持ち帰っても、漂白剤に浸けておけば、汚くて困
ることもないし、遺跡から出た遺物などと違って、拾っても発
掘調査の邪魔になることもなさそうです。海岸陶片集めは、
アウトドアの遊びとしても、多くの人が楽しむことができそう
な、未開拓の世界です。

 一度に大量に出るわけではありませんから、集めるのに
手間はかかりますが、たとえ趣味として楽しんで拾ってい
ても、陶片たちは、自分の住んでいる地域の、数百年間の
生活を伝えてきます。それらを拾い集めることで、よりきめ
の細かい、近世、近代史がわかってくるかもしれません。
海岸陶片への関心が高まり、数万、数十万・・・といった数
の陶片が拾われたとき、陶片たちはきっと、何かを語りか
けてくるに違いありません。

※ 写真をクリックすると大きくなります。
   また、( )内の地名は採集地です。

18世紀か (宮島)

段重、蓋物
18世紀〜(宮島)

鉢小片 (宮島)
18世紀〜

銅版印刷 近代 
(似島)

志田窯 大皿の破片
江戸後期 (宮島)

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