さらに詳しく・・・・   

春、1年分のウールをまとったひつじの毛刈りが始まります。

毛刈りは、専用のハサミ、バリカンで行いますが、動き回り

逃げ出そうとするひつじを危なくないように、保定《ほてい》して行います。

 

毛刈りをした1頭分の繋がったウール、これをフリースと 言います。

一年分の汚れや、使えない部分を落とす《スカーティング》

という作業を終えて洗いに入ります。

  

1頭分のフリースを一度にではなく、約1kgずつウール洗い

専用の洗剤を入れた60度90度くらいのお湯に5時間〜一晩、浸けておきます。

その時なるべく温度が下がらないように蓋をして待ちます。

浸たす入れ物によって、洗う量は変わってきます。

決して詰め込んではいけません。

      

私の使っている洗剤は、一般的なウール洗い洗剤とは違い、

ひつじのフリース専用の、練り上げてある固形の物なのですが、

ほぼ無臭で、感触も見た目もクリームチーズのような感じと

言ったら分かりやすいでしょうか、汚れも無理なく落とせます。

   

その後すすぎます。

ウールをザルに移して水切りし、急激な温度変化に注意

しながら、セーターを洗うときの温度、50度以下を保ち、

汚れがひどい場所は、洗剤を付けなおし、軽くもむ感じで優しく

手早く洗い上げます。決して強い力で洗ってはいけません

振り洗いや、もみ洗いは禁物です。

   

すすぎすぎも禁物です。ウールに付いている《ラノリン》

と言う上質の脂分を落としてしまうからです。

軽く脱水して、風通しの良い場所でフワフワに乾かします。

    

この時、固まっているようでしたら、やさしくほぐして広げます。

 

その後…

草木や、染料を使ってウールを染めます

ここでは、こげ茶原色のウールを例にあげていますので染色は

しません、染めるウールは生成りのものだけです。

草木染めもまた楽しみの一つです。

乾燥した染料を求めることもありますが、畑や山にある

身近な植物、例えばサツマイモの葉、マリーゴールド、

栗の木やイガや枝、玉ねぎのおに皮など、ほとんど何でも染める

ことが出来ますが季節によって、植物ごとに、その年の気候、

媒染する材料よって染まる色は変化します。

染料の量は、生の材料でしたら2倍〜3倍、物によっては

5倍の量は必要です。

ドライのもは、その材料に応じて変わってきます。

染める前に、ウールが充分つかる位のお湯を沸かし、

ウールの5%15%の生ミョウバン、5%程度の酒石酸をとかし、

温度が40度位になったら染めるウールを静かに浸しておきます。 

この作業は、「先媒染」と言って、ウールが染まりやすく

するためです。そしてウールを入れ、煮ます。

沸騰するまでは強火、その後は弱火でクツクツと15分位。

その間に植物を煮だし、濃いめの染液が出来上がったら

(煮だした植物はこしておく)ミョウバン液から取り出したウールを静かに浸します。

先媒染の時と同じように、沸騰したら弱火で15分、煮終わったら

媒染剤を入れると、色の変化が楽しめます。

全体がムラなく浸かれば、大丈夫。

ただ、鉄媒染があまり強いと、ウールが傷みやすいので

気をつけなければいけません。

洗うときも、染色の時も一番気をつけなければ

いけないのが、急激な温度変化と力加減です。

ウールは急激な温度変化や強い摩擦でフェルト化するからです。

染液につける時間の目安は、染液がほぼ透明に近い色

になり、ウールに全て吸収されるには半日以上は必要です。

   一期一会…

思い通りの色が出たり、意外な色合いになったり…

それもまた小さな驚きと共に、感激の瞬間です。

媒染剤や色を定着させるためお湯で、染め上がった

ウールを優しく二度すすぎ、軽く脱水して広げフワフワに乾かします。 

くしゅくしゅと縮れた原毛は、カーディングと言って、

専用の器具や機械で、髪の毛をとかすように優しく

繊維を揃えてやっとつむぐことが出来るのです。


←サツマイモの生葉で染めました
                                                                          
                 

フェルトにするのもここからです。

  

その時に応じて、単糸《たんし》や双糸《そうし》にし、

つむぎ終わった糸は、蒸しゴマに取り蒸し器で20分位蒸しあげ、

常温に戻ったところで巻き取り、やっと編むことが出来るのです。

この《蒸す》作業は、撚りが戻らないよう定着させるためです。
《撚り止め》

         

編みたいもののデザインは、ウールを洗うときの

感覚で決まります。すでに洗ってあるウールを求めるときも

同じで、私は編むものによって先にウールを選びます。

一口にウールと言っても、細さや弾力、感触は様々で、

セーターに向くものや絨毯や服地に向くものなど様々で、

見極めることも必要ですが、手触りやつむいだときの感触で、

デザインや編みたいものが変わっていく…・と言うことも少なくありません

ここまでの工程は、少なくとも36日位。

一頭のひつじから取れるウールは、約3Kg

シンプルな女性物のセーターならば、5〜6着分になりますね。

採寸し、ゲージを取り、デザインを決め、編んでいく…

          

一着分をつむいで編み上げるまでに、最低でも一ヶ月は必要です。

 

スローライフ…

だからこそ、価値のあるオンリーワンのセーターが出来上がるのです。