ネズコネミ
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猫鼠には友達がいなかった。 まるで猫のようなネズミで、生まれつきのずんぐり体にけばけば模様の毛皮でみたまんまはそのまま猫。 だから友達になってくれそうな鼠はちらりと姿を見せただけで飛んで逃げてってしまう。 話かけるきっかけさえない。 だったら逆転の発想で、いっそのこと本物の猫に混じって暮らせれば良かったかも知れないけれど、性根はやっぱり鼠だし、見た目と裏腹にびくびく屋だったから近付くことさえ出来ない。 だからいつもひとりぼっちでお腹を空かせていた。 鼠猫には友達がいなかった。 まるでネズミのような猫で、生まれつきのちんまり体にぼそぼそ灰色の毛皮でみたまんまはそのままネズミ。 だから友達になってくれそうな猫はちらりと姿を見せただけで飛んで襲いかかってくるから喧嘩ばかりの毎日。 かといって、性根はやっぱり猫だし、見た目と裏腹にヤクザな性格だったから、仲間だと勘違いして寄ってきたネズミは片っ端から食べてた。 だからいつもひとりぼっち。だったけど腹はそんなに空いてなかった。 そんな二匹が出会った時に変な関係は生まれた。 猫鼠は、自分の姿を見ても逃げないネズミ(みたいな猫)に驚いて、 鼠猫は、自分の姿を見ても襲いかかってこない猫(みたいなネズミ)をいぶかしんで、 お互いに興味を持つのは簡単だった。 会話と云う物はそれだけで十分な娯楽だ。碌に出来なかった二匹なら尚更だったろう。 お互いに正体を明かしあっても話相手としての仲は続いた。 ――ほら、これがあるから猫に間違われるんだ。 云いながら猫鼠が見せた、間が空き過ぎててまるで牙のようになってる前歯を、自分だって牙が詰まり過ぎてて前歯みたく見えるくせにゲラゲラ笑い飛ばしたり。 ――ほれ。これのせいで鼠と勘違いされやがる。 云いながら鼠猫の見せた、毛の薄い剥き出しの尻尾を、黴の生えたふさふさ尻尾を持ってる経験上、あー。冬とか大変そうだね。と慈しんでみたり。 ネズミ取りのチーズを如何に上手に取ったか経験談を聞かされては、ほォ。流石鼠は小知恵が利きやがる。と感心してみたり。 外で暮らす際の良い塒の探し方、水の確保の仕方等レクチャーしてみては、わー。野良猫って逞しいなあ。と尊敬してみたり。 あんまりにも話が尽きないんで、いっそのこと、と同じねぐらに住むようになって、お互いの毛皮にくるまり合うようにして寝たりした。 それらは、それだけで、それなりに楽しかった。 そんで。その話を持ち出したのはどちらだったか、最早解らないけれど。 二匹が住んでいる都会には、その中心に三つの超高層ビルが三角形に密接して聳え建っている。 あんまりにも密接してるもんだから、その隙間の三角地帯には誰も立ち入る事が出来ず、ほぼ完全な無人で、どんな状態になってるやら誰も解らないらしい。だから、そんな噂も立ちやすかっただろう。 そこに、ヒゾウブツのカミサマが居るらしい。 ヒゾウブツと云う響きが被造物で、その意味を彼ら畜生に理解できたものなのかどうなのかは解らないけれど、ともかく、壊れた物を何でも直してくれる神様だそうだ。 早速、会いに行こう。と云う事になった。 成程。考えようによっては彼らのちぐはぐな外見は、確かに「壊れている」とも解釈出来た。 人間がわらわら居るビル内は屋内派の猫鼠が先導して進み、屋上まで辿り着いて。そこから、鉄骨の張り巡らされた内部へ降りる際には野生の鼠猫が率先して。それぞれ力を発揮した。 そして、その冒険の結末から云えば。会うことが出来た。 神様はまっ金色で、この世のありとあらゆる動物を混ぜくったような姿をしていたらしい。そして更に、二匹の願いは比較的あっさり叶えられたらしい。 気前のいい神様だった。あんな処に住んでる位だから暇だった。等憶測はあれど、神様もどっちが猫で鼠だか間違えちゃったらしいって説が有力だ。 神様の云うことには、明日、目が覚めたときにはもう直っているとの事だった。 そして、いつも通りのねぐらの中で鼠猫が目を覚ましたとき、猫鼠はもう居なかった。 餌でも漁りに行ったか? と、探している最中、ふとした弾みで自分の姿に気付き、色々悟った。 ――ああ。そうか。 鼠猫でもなんでもない、純然たる猫の姿。 ――アイツ。逃げちまったんだな。 鼠みたいな姿をしていた猫だから、猫みたいだけど鼠の友達を持っていた猫だから。とてもすんなり理解できた。 当たり前の事だ。と思った。 そう。当たり前の事だったのだ。 それ以降、二匹についての話はぱったり聞かなくなった。 そうでなくとも、普通の鼠になった猫鼠は鼠らしくなるべく社会の裏側で生きただろうし、外を闊歩する鼠猫も、そこらの野良猫と区別するのは難しかったろう。 でも。ただ。捕まえた鼠の、その尻尾を掴んで目前に持ってきて、何かを確かめるようにじっと見つめる。 そんな変な仕草をする猫が、今も何処かに居るらしい。 |