山岳会は必要か


みんなで長距離縦走に出発


初冬の大山で雪山練習


お隣さんとの登攀練習と懇親会
斉藤一男氏の「山その日この人」(論創社)には 「最近は3000m級の高山でさえ簡単に登れるようになり個人的登山者ばかり 今は団体組織の必要性を認められない時代なのである」
と言うようなことが書かれています
私の知る限りでも大学の山岳部は衰退し町の山岳会も新人が入らない 昔は年度ごとに何期生として20代前半までの新人を入れていたエリート山岳会も今や40代新人でも入れるとか
誰も山の会に必要を感じていないようです
かっての山岳会は 厳しい登山のためのパートナーを求め 会員はともに技術を磨くなかからお互い信頼できる関係を築いて行ったものですが 単独こそ登山の究極の形とする考えもあり 古来から多くの単独行者があったのも事実でした
ゲオルグ・ウインクラーやカルロ・マウリ、ワルター・ボナッティなどすぐれた単独登攀を残しています
現在ではシングルフリーと言われるとんでもない所を一人で確保なしで登る人もいるようです
それでは 誰でも一人でさっと登ってしまうのが良いのでしょうか
それで心の満足が得られるのでしょうか
前穂北尾根を涸沢から見ていてちょいと思いついて一人で登った人の手記を山渓で読んだことがあります
なかなか怖い所を一人でなんとかしのいで(北尾根をシングルフリーで登ろうとは私は思いませんが)頂上に立ったとき 山頂で楽しく語り合いながらザイルを巻いている男女を見て(つまり彼はこの先行者に追いついたわけですが)心に湧き上がってきた疲労感と喪失感をどうする事も出来なかったと書いていました
難しい登山をするためにザイルパートナーが必要なだけでなく 気楽なハイキングでもパートナーがあった方が楽しいし安心ですよね
そして 何よりもお互いに登山を共感しながら過ごす山行きの充実感 クラブにとけこみ技術と気心の知れた仲間と過ごす山行は一人での登山では得られない喜びがあると思います
一人で少しずつ技術と経験を深めて行くのも大切な経験だと思いますが
クラブには培われた経験と技術・情報があります それを十分に活用する事でクラブに有る登山力や登山文化を自分の物として共有する事が出来ます
近年未組織登山者の事故が多く発生しており上部団体を持つ山岳会の活動は見直されているのではないでしょうか

▲△私達の属する日本勤労者山岳連盟のはじまりのことが先にふれた 斉藤一男 著「山その日この人」(論創社) 第八章に「勤労者山岳会の誕生」と題して書かれています 労山の創立とその基本理念を語るこの名文を要約しますと
 1960年五月、《広範な勤労者に健全な登山をひろめ、登山の真の大衆化をめざす》との趣旨をもって「勤労者山岳会」(労山=現在の日本勤労者山岳連盟の前身)が、つくられました。

 北アルプス・三俣蓮華岳や雲ノ平で山小屋を経営する伊藤正一は、過酷な労働条件―低賃金、長時間労働、わずかな有給休暇―をおして、小屋を訪れる勤労登山者の姿や遭難の頻発に心を痛め、どうすれば彼ら勤労者に事故なく山をつづけてもらうことができるのか、登山の大衆化を促すには、と考えた結果 《まず、たしかな技術と知識を身につけてもらうことが必要だ》 《だが、登山を長くつづけるには、登山のための社会的基盤が整っていなければならない。技術や知識を高めると同時に、登山のもつ社会性を考える場が必要ではないか》、考えたすえに、辿りついた結論が勤労者による勤労者のための山岳会≠フ結成でした。

 伊藤は、画家・いわさきちひろの夫、松本善明(弁護士)の協力を得て構想を練り《登山の正しい大衆化をめざす》などの趣旨と、勤労者主体の登山組織の必要性を盛り込んだ「設立趣意書」をまとめ上げ、各分野の学者・文化人に支援をもとめますその結果、
伊藤正一、松本善明、深田久弥(作家)、田中澄江(同)、袋一平(ロシア文化研究者)、谷口千吉(映画監督)、田辺和 雄(植物学者)、小林国夫(地質学者)、丸木位里(画家)、丸木俊子(同)、山本薩夫(映画監督)、高倉テル(作家)、中島健蔵(評論家)、平野義太郎(法学者)、黒田寿男(弁護士・衆院議員)、木村禧八郎(参院議員)。の十六人が伊藤の要請に応じ、発起人となったのでした。

1960年五月十二日、「勤労者山岳会」(労山)は、深田久弥の講演を中心にした「結成記念の夕べ」を開き、東京・千代田区の千代田公会堂に1000人余の参会者を集め、その場で300人の入会者を得ることが出来たのです。

 しかし「勤労者山岳会」は、エリート意識と権威主義に浸ってきた大学山岳部出身者が牛耳る、登山界に波紋を呼び「勤労者」の名称を、《山に思想を持ち込む左翼山岳団体ではないか》などと敵対視したり、《ブルーカラーが大挙して山に押しかけるようになったら(山は)いっぺんに俗化してしまう》等皮相な見方や《どうせ、長くはもちっこない》などと揶揄する声がひろまり、旧来からの山岳団体の連合体である「岳連」も、「勤労者山岳会」とは一線を画す姿勢を示したのでした。

 しかし「勤労者山岳会」は、広く勤労登山愛好者の支持を集め、六三年七月には、各地域の労山を糾合し全国組織の「連盟」になります。以後曲折を重ねながら、国内外での登山活動を活発に展開し、エベレスト、K2、ナンガ・パルバット、ローツェなどヒマラヤの高峰の登頂者を輩出するまでになったのでした、その一方で独自の遭難救済制度(「遭難対策基金」)の創設、山からゴミを一掃する運動(クリーンハイク)、全国雪崩事故防止講習会の定期開催、外国山岳団体との交流、といった先駆的な活動に取り組み成果を上げています。
 創立五四年目にあたる2014年現在、加盟団体700弱、会員数二万数千を擁し、登山界にたしかな地歩を占めているのです。
▲△私達はこの 日本勤労者山岳連盟創始の精神を受け継ぎ「勤労者による勤労者のための山岳会」を実現するよう努力しています 《先人の心を感じ「山岳会もよいなあ 必要だなあ」と思いませんか。》

桃源郷クラブ
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