指回し情報

1.はじめに

指回しと言っても、曲芸のジャンルと考える人はまずいないと思う。 普通に想像するのは、指回し健康法と言うのが少し前にちょっとだけ流行ったけど、内臓の重要なツボに刺激を与える指を回すと言うものであろう。 私は、昭和61年に「花王名人劇場」の サラリーマン一芸名人集に出演以来、平成18年まで33回に及ぶテレビ出演や各種イベント等に出演させて頂き、指回しを世の中に認知してもらうべく活動を行ってきました。どのような芸かと言うと、人差し指を使って(椅子、畳等を回す場合は中指も使う)、例えば本や座布団を回したりする芸である。ただそれだけだと瞬間芸で終わってしまうので、昭和61年からのの慰問活動の中で、皿回し、傘回しなども組み入れて、5分から10分程度お客様に見て頂けるように舞台芸として確立してきた。ですから日本広しと言えども舞台芸として行っているのは私一人ではないかと思い、自称「日本一の指回し」を名乗っている。

2.覚えたきっかけ

学生時代、専門書を指先で回す先輩がいた。 と言ってもそれは完成したものではなく指先で4、5回まわす程度で、よく親指、人差し指、中指でペンをくるくると回す人をよく見かけるが、それと同じ程度のものである。それがきっかけで、社会人になってから思い出したように座布団を回す練習を始め技術習得したのである。
最初は、座布団回しから始めて電話帳、アタッシュケース、フライパンとレパートリーを増やしつづけたが、その背景には「南京玉すだれ広島保存会」の仲間と慰問活動を続ける中で、新しいものを回して仲間をビックリさせたかったのと、テレビに何度か出演させて頂き、視聴者の目を意識して新しいものを見せないと飽きられるという不安から新ネタを考えなければいけないと言うものが有った。

3.どんな物を回すか?

何でも回しますとは言っているが、指回しでいろんな物を回転させるのも、自動車がタイヤと地面の摩擦でタイヤが回転して前に進むように、指先の摩擦が重要なポイントとなる。従って、軽すぎるものはだめて、重過ぎるものは指が耐えれるまでなら大丈夫である。 次に、重心の低さもポイントになりバケツなどは、重心が高いので、回転させる指先の円より外に重心が外れてしまい、指先からどうしても落ちてしまう。
現在、舞台芸として行う時の手順を書いてみよう。
(1)電話帳(ハローページ) … 非常に身近なものなので、見る人は結構驚いてくれる。
(2)電話機 … ある番組に出演させて頂いた時に、ディレクタが電話帳が回るのなら電話機は回らないかと言われ、「そんなもの回りませんよ」とは言ったものの電話機が回れば驚いてくれるだろうなと自分も思い、回しやすい電話機を捜し求めて、練習も重ねてついにレパートリーにする。
(3)フライパン … 取っ手がある関係で、重心を指先で追跡するのが、難しくかなりの難物であるが回す道具としては、一番愛着がある。 演技の時に、「今朝卵焼きを焼いてきたばかりのフライパンです」と言っているが、最初の5年間ぐらいは、本当に天ぷらを揚げたり、卵を焼いたりしているものを出演がある当日になって、フライパンを洗い、よく磨いて使っていたが、いちいち磨いたりするのが大変になって、それからは指回し専用のフライパンになってしまった。
(4)まな板 … 台所シリーズという感じで、フライパン、まな板と続けると主婦に受ける。
(5)寿司桶の蓋と桶 … 台所シリーズの続きで回すのだか、妻からは、くどいからこれは止めた方がよいとアドバイスを受けるが聞き入れない。
(6)アタッシュケース … これも当初は仕事に使っているものを回していたが、フライパンと同様に今は指回し専用になっている。 ここらで、単調にならないように、目隠しをしてこれを回す。 別の項に述べていますが、私の「広島チャンピオン」の記録と言うのが、『目隠しをして7分間カレー皿を回す』(後に、テレビ番組のなかで、9分5秒に更新する)であり、このあたりを自称日本一と名乗って自慢したいところである。 目隠しの向こうの観客から、「ワァー」と言う声が聞こえる時が、この上なく幸せを感じる時である。
(7)座布団 … 座布団といっても法事で使うようなものでは、賑やかさがないので、私が使っているものは、サテン生地でカバーを赤、緑、白と3色用意している。 座布団回しと言っても超高速回転になると、丁度ヘリコプターの羽のように完全に真っ平らになって、観客を魅了することができる。 座布団の場合、受けるのが簡単なので、回転が最高潮になった所で、上空2〜3メートルの高さに投げ上げ、指先で受けて回し続けることを2〜3回程度行う。 ここからもう少し難度を上げて左手にももう一枚の座布団を持って2枚同時回しを行うと、会場割れんばかりの拍手を頂くことが多い。 この両手回しは、お祝いの席では、紅白座布団を使い、クリスマス会や通常のイベントでは、非常に映えて見えるので赤と緑の座布団を使う。
(8)めいぐるみ … ぬいぐるみと言っても高さが60センチ程度ある猫のそれで、児童館などでよく受ける。
(9)折り畳み椅子 … 属にいうパイプ椅子を人差し指と中指の2本を使って、頭上で回す。物が大きいのでやはり迫力がある。
(10)敷布団 … 半分に折りたたんだものを回すが、折り畳み椅子以上に迫力があり拍手も多く頂ける。 これはかなりの体力と腕の力を必要とし、日ごろから体を鍛えておかないと出来ない技である。 今年のフラワーフェスティバルでは、これまで出来なかったことがないのについに失敗をしてしまった。

通常、指回し芸はこれくらいだが舞台では、この後に傘回しや棒で回す皿回しを行う。 その他の指回しネタとしては、畳回しがあります。 テレビの中では、「タモリのジャングルテレビ」や「アッコにおまかせ」で行いましたが、一畳の畳を運ぶことが出来ないこと以上に、通常の畳は私の場合、半畳なら回せるが、一畳なら全く体力不足と言う感じである。 ではなぜテレビでは出来たかと言うと、スタジオにはセット用の畳があり、それは通常の畳より厚みが半分で半畳の重さしかないので私が回せたと言うことであります。

4.指回しのむずかしさ

指回しを行う人がなぜ少ないかと考えるに、それはこういう芸が有ること自体知られてないので、やってみようと言う人は出てこないのである。 中国雑技団にはすごい芸を行う人がたくさんいて(子供の時から英才教育で育てる)足技で大花瓶やふすまを回すと言うものや、手で何本物棒を持って皿回しをするのをよく見掛けるが、未だかって指先芸を見たことがない。 この技とて彼らにかかれば何てことはなくすぐに習得してしまうと思うが、知られない間が花なのかもしれない。
難しさを考えるのに、皿回しと比較してみよう。正直言って20倍くらい指回しが難しい。過去に3回程度皿回しの講師をやったことがあるが、1時間程度の練習で10%〜20%の人は出来るようになる。 ところが指回しは教えても出来るようになった人は一人もいない。技術的な事を比較しても、皿回しの場合、皿の底の縁に当てて回すのであるから、何番も棒を立ててその上に皿を載せて回す芸を見られた事のある人なら解かると思うが、要は何もしなくても数十秒は落ちないのである。 ところが指回しの場合、数十秒どころか、自分で回さなければ、すぐに落ちてしまう。
指回しのメカニズムを説明してみよう。 まず、回す物の重心あたりに、指先をおいて、左手で回転を付けて回す(右手だけで右手のものを回すことも可能)。 重心に指を置いておくと、慣性でしばらくは回り続けるが、そのままだと止まってしまうので、重心から指をずらして指先で回転を付ける。(重心に指があったのでは、自分の回転を付けれない) 回転を付けると皿は遠心力で外側に飛び出そうとする。 落ちない様に指先を重心に持っていく。 と言うように、瞬時に指先が重心と数cmはなれた場所を往復させることとなる。 その為には、指先が微妙な重心の移動を判断できるようにならねばなりません。 これは指先に重心を読む目があると言う感じのものですから、難しさを理解して頂けると思う。
最後に自分も挑戦してみようと思われる方に、習得までどのくらい時間がかかるか事例を紹介しよう。 ある番組で、「今度はどういう技にチャレンジしたいですか?」と言う質問に、「両手で回すようになりたい。」と言ってしまったばかりにどうしても習得しようとかなり練習した。 当然毎日の練習時間によると思うが、私が思い立って、左手回しを練習し始めて、出来るようになるまで4ヶ月かかりました。 当然、右は完全に出来ていて(すなわち、理屈は完璧にマスターしていて)も先ほど説明した、指先が重心の移動を判断できるようになるまで時間をようすると言うことである。 ちなみに、この後両手回しができるまで、1ヶ月かかり、丁度その時、日本テレビ系の「ズームin朝」の出演依頼がお正月に宮島の鳥居の前で両手回しを行いました。