第61回 鈴木三重吉賞 受賞

けん道のしあい

広島市なぎさ公園小3年 いくた ゆうき

「はじめ。
いよいよしあいが始まった。
今日のしあい相手は、強いからどきどきする。
先生になんども言われたことは、
大きい声を出すことと、自分からせめていくこと。
なんどもなんども口の中でとなえて、
どきどきをおさえようとした。
相手のめんのおくの顔をぐっとみた。
「うお。」
自分でもびっくりするほど大きな声が出た。
思いきり竹刀をふりあげて、
「めん。」
声もからだもぶつかって、つばぜり合い。
相手をおって、また、
「めん。」
さっきまで考えていたことなんか
わすれてしまいそうだ。
ぼくは後ろに下がったあとにめんをうたれることが多い。
今日は後ろに下がらないぞ。
自分からいくぞ。
「めん。」
「どう。」
とったかなと思った。
うってもうっても決まらない。
相手がさっきよりせめてくる。
ぼくは後ろへさがりそうになる。
どうしよう。
相手の竹刀の先がぼくの気持ちをおしてくる。
「めん。」
あい手がどんどんせめてくる。
勝ちたい、ぜったい勝ちたい。
「うお。」
大きい大きい声を出した。
前へ出るぞ。
ぼくからせめるんだ。
がしゃんがしゃん、竹刀がぶつかる。
あぶなかったけど、相手のめんをうまくよけた。
そしてしぜんにからだが動いた。
「どう。」
赤いはたが上がった。
時間を知らせる黄色のはたも上がってふえがなった。
礼をして場外に出た。
先生がいっぱい手をたたいてくれた。
ぼくも、心の中でいっぱい手をたたいた。

2009年(平成21年)1月19日(月曜日) 中国新聞(21)掲載
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