「聞いているのか」
上の空の彼の相棒に顔をしかめて厳しい声で言う。
不思議と最近成績が良いとはいえ、余裕があるほどの生活には至っていない。
相変わらず、子供は成長期に相応しい食欲を示すし、愛犬もかつての食糧事情のために、えさは食べられるときに食べておく主義で。
嘗てからは考えられないくらいの成績を上げている相棒も、破壊量が目立って減っているわけでもなかった。ただ、ものは壊す、獲物は逃す、といった踏んだり蹴ったりではなく、とりあえず赤字にならない程度では実績を上げるようになっただけ。
暫く小物が続いた後で、
割のいい話を入手したところで、
財布を握っている彼からしてみれば、どうしても失敗はしたくない仕事だった。
気にしているかどうかはともかく、そんなことは承知している筈の相方が上の空なのが気に入らない。
普段は、聞いていなくても適当に生返事を返してくるのに、今は何の反応も返してこなかった。
「スパイク」
苛立ちをいくらか含んだ声が名を呼べば、やっと呆けたような間抜け面を彼らに向けた。
焦点の定まっていないような瞳を向けたままで固まってしまった彼に、少し、怯む。
「スパイク」
ついに壊れたかと、今度は気遣わしげに呼びかける。
目が合うと、はっきりジェットを認めて、誤るでもなく、続きを促すでもなく、全く関係の無いことを口に上らせた。
「ま、あれだ、俺は自分で思ってるよりもずっとあいつにイカレてたって訳だ」
少しきまり悪そうに苦笑する。
そんな彼を子供と犬は不思議そうに見つめ、相棒はわざとらしいほど深い溜息をついた。
きっと彼は、会話がかみ合っていない事に気づいていない。嫌になるほどそれが分かる。今までもないことはなかったが、最近頓に増えてきた。
原因だか、きっかけだかは知らないが、何かは2人とも知っている。
壊れてしまえばいい。いっそ。
何度かそんなことを考え、同じだけ、そんなことはごめんだと、思った。
「しょうがない馬鹿だな」
手にした資料で額をつつきながら、ひっそりと横を向く。
自分の表情に自信が無かった。子供や犬に見せられない顔をしている気がしていた。
苦笑している彼が、穏やかに幸せそうにしているのに水を差すようで気に入らなかった。
何より、そんな彼を見てもいたくなかった。
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